栄水の手帳2024年3月27日 撥皮について


2024年

3月27日 撥皮について


撥皮1

撥皮は、撥先が当たって皮を傷付けるのを防ぐために貼っておく薄い皮です。これも、長唄、民謡等と津軽、義太夫では形が違います。長唄、民謡等は半月形で、津軽三味線は長方形、義太夫も長方形ですが長さは津軽よりも短く正方形に近い感じです。これは奏法の違いによるものです。

撥皮2

上が長唄、民謡等の半月形、下が津軽用の撥皮。

津軽三味線のはなぜ長方形かと言うと、一般的な「叩き三味線」の流派の場合、撥を当てる位置が胴の棹寄り(前撥)と胴の中央~駒寄り(後ろ撥)と、大きく振り分けて演奏するからです。この奏法を僕は勝手に「振り撥」と呼んでいたんですが、どうもそういう表現は無いみたい?気になってググってみたんですが、見当たらない?・・・まあいいや。ここでは「振り撥」と呼ぶ事にします。

撥皮3

僕は振り撥はしませんので写真はあくまでイメージです。前撥、後ろ撥、だいたいこれくらいの位置なんじゃないでしょうか。なので撥皮も長いものが必要になってくるのです。


それで、撥皮の消耗は撥の当たる所が擦れてだんだん薄くなり・・・

撥皮4

撥皮5

上の写真は、まだ当たりが付いてるだけの状態ですが、最終的には穴が開きます。穴が開く前に新しい撥皮に貼り換えます。貼るのは慣れれば自分でも出来ます。ノリで貼るだけ。僕は最近はフエキ糊を使ってます。撥皮には裏表があって、良く見るとツルツルの綺麗な面(表)とザラザラした面(裏)があり、裏面に薄く糊を塗って貼り、撥等を使って糊を押し出す感じで貼り付けます。そして、はみ出した糊を拭き取ります。僕は使い古した撥の先を切った物を使ってます。

撥皮6

撥皮7

撥皮が捲れる事はよくあります。スクイ撥の時に引っ掛かったりして捲れます。そんな時は、つま楊枝等の先に糊をつけて捲れた部分に押込み(皮を刺さないように)、撥等で糊を押し出します。


・セロテープは意外と丈夫

10年程前の話ですが、撥皮が1ヶ月くらいで穴開きそうになるんで、その都度新品に貼り換えてたんです。何度も剥がしては貼りしてると、三味線の胴皮の表面が荒れてきて、そこから亀裂が入り破れてしまいました。三味線の皮自体は数年使用していた物でしたが。皮の傷付きを防ぐための撥皮が、逆効果になってしまった。

下はその時の写真。撥皮の向こうに黒い筋が見えるでしょ。数日後には、ここから完全に皮が破れました。

撥皮8

ちなみにその当時は、撥皮貼るのにアラビックヤマト糊を使っていました。後日談ですが、僕が世話になっている三味線屋さんの先代店主がアラビックヤマトはよくない、って言ってたらしいんです。最近、現店主から聞きました。先代からは三味線の話、いろいろ聞かせてもらって、今でも参考になる話、ヒントになる話、覚えてます。しかし、アラビックヤマトの話は初耳だった。

アラビックヤマトの名誉のために言っておきますが、これはあくまでも撥皮に関してだけですからね。それに僕が皮破れたのも、おそらくあまりにも頻繁に撥皮交換したのが原因であり、糊に原因があるのかは分かりません。

ほいで、そんな事があったので、撥皮はそう頻繁に剥がさない方がいいなと。ではどうするか? 撥皮が穴開きそうになったらそこにセロテープを貼る。意外と丈夫なんです、セロテープ。見た目はダサイけどね。でもかなり耐久性ありです。普段使いはこれ。舞台やライブの数日前に新品の撥皮に貼り換えるようにしてます。数日前ってところがミソ。撥皮は新品を貼った後、しばらくは捲れやすい場合があります。自分でやった時は特に。うまく糊がついていない場所があったりしますんで、確認のための時間が必要です。舞台で捲れたら難儀ですから。それでも僕は念のため、常に糊とつま楊枝は持ってます。


これまでは本皮製の撥皮についてでしたが、本皮製ではなくシールタイプのものもあります。セロテープが丈夫なんだから、シールタイプのも丈夫だろうな、と想像はつきます。ただ、剥がす時が怖そう。胴皮にダメージはないのか?ってところ。僕は使った事無いんでよくわかりません。胴皮が合皮の場合にはシールタイプじゃないと無理でしょうけども。


ちょっと話が戻って、「叩き三味線」の奏法は「振り撥」だと書きましたが、これに対して、いわゆる「弾き三味線」(これは竹山流のみだと思いますが)の場合は、基本的に振り撥はしません。調弦の時に小さく前後に振る程度です。

僕の場合6、7年前までは、撥の打つ位置、特に一の糸を打つ時は結構胴の真ん中から駒寄りを打っていました。強い音を出したいと思ってね。でもその後打ち方も変わり最近は全ての糸、棹寄りばかり打ってます。そうなってくると津軽用撥皮の長さは必要ないの。義太夫用がちょうどいい感じなんです。最初は津軽用の撥皮を切って短くして使ってたんですが、半分に切るとちょっと長さが足らんの。半分でちょうどいいなら、1枚で二枚分使えるんだけど。でも実際にはちょうどいい長さに切ると中途半端なのが残ってしまい、もったいない。それで最近は自分で作ってます。

撥皮4

自作の撥皮、ほぼ義太夫用って感じ。

胴に張る皮の切れ端や破れた皮を利用して、薄めて薄めて、薄めて撥皮にします。どうやって薄めるかは、最初に鑿で四辺周囲を薄めて60番紙ヤスリで全体を薄めて、ある程度の薄さになったら紙ヤスリ180番以上と鑿で仕上げていきます。

撥皮9

撥皮10

撥皮11

これ、まだちょっと分厚いんだけど。市販の撥皮くらいまで薄めるのは結構大変で、途中で破れたりクシャクシャになったりで。もっと上手いやり方があるのかもしれないけど・・・市販のはどうやって薄めてるんだろう?・・・ま、でも、ここまで出来たらかなり変態の域に達しているんじゃないでしょうかね。撥皮に限らず、駒なんかでも自分で作れれば好きな寸法に出来るし選択肢も広がるし面白いですよ。

とは言うものの、皆さんもやりましょう!とは絶対言いません。僕は何でも自分で作ったりするのが好きなだけでね。僕みたいな奴ばっかりだったら三味線屋さんが儲かりまへんでしょ?


ああ、それからもう一つ、僕は音緒の当たる部分にも使い古した撥皮の傷ついてない所を切って貼ってます。糸が当たって皮が擦れるのでね。

撥皮12

撥皮13

皮だって命あるものを頂いてるんだから、出来る限り無駄にする事無く使いたいという気持ちがあります。破れた皮も捨てずに置いてあります。まだ使い道があるから。