三味線の皮は猫の皮と思われがちですが、実際には犬皮の方が多く使われています。猫は腹の部分、犬は背中の部分の皮を使うそうです。猫皮は貴重で価格が高く、高級な細棹三味線と地唄用の中棹三味線に使われます。稽古用の三味線や太棹三味線はすべて犬皮です。

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猫皮と犬皮では、厚さや毛穴の大きさなどの違いから音質も違ってきます。猫皮の方が、より繊細な音色になります。津軽で使う太棹三味線には最もぶ厚い丈夫な犬皮を使います。ぶ厚い皮ほど重厚な音色になり、薄いほど、抜けの良い軽やかな音色になります。

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写真では判りずらいですが、犬皮(津軽用)と猫皮では全く厚さが違います。触った感覚では、津軽用の犬皮は猫皮に比べて3~4倍の厚さがあります。また、犬皮でも津軽用(太棹)、地唄用(中棹)、長唄用(細棹)とで、それぞれ厚さは全く違います。

それから、一枚の皮の中でも、厚い部分と薄い部分があります。この差が大きいほど、よく鳴るそうです。これまた触った感覚ですが、その差は、倍くらい(それ以上か?)違います。毛穴の粗い部分は薄く、密な部分が厚くなっています。下の写真(津軽用)、赤丸で囲ったあたりは皮の薄い部分です。厳密には他にも厚い部分、薄い部分はあるんですが。

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三味線の皮は、なぜ犬、猫なのか?

よく鳴る、良い音が出るためには、三味線の”胴”という大きさの範囲内で厚さの差が出る皮でないといけません。ですから、牛などでは大きすぎるんですね。もっと小動物で手に入り易く、最も三味線に適したもの、ということで、昔々琉球から三線が伝わって以来、試行錯誤で江戸時代にはすでに完成されたのです。

しかしながら、猫皮も犬皮も現在ではほとんどが輸入品だそうです。皮に限らず、棹の材料である紅木、胴や棹の材料である花林、糸巻きの黒檀、象牙、撥に使われるべっ甲など、三味線の材料のほとんどは輸入品です。日本独自の楽器なのに意外な感じですね。



・三味線の注意点(皮)

胴に張る前の皮は、乾燥させてありますので、触ると画用紙のような感じです。これを水で湿らせて、やわらかくした状態で破れる寸前まで胴に張っていきます。ここは、職人さんの腕にかかってきます。

胴と皮の接着には寒梅粉という餅米からできた粉を水で溶いたものを使います。水飴のような糊で、乾くと強力に接着します。しかし、水溶性ですので水濡れは勿論のこと湿気にも十分注意しなければいけません。梅雨場は気をつけましょう。三味線を使わないときは和紙の胴袋に入れておけば、ある程度の湿気は和紙が吸ってくれます。冬場の結露にも注意です。近年の住宅は気密性が高いので結露は結構ありますよね。三味線を保管する時は、壁から少し離しておくなどの配慮も必要です。それ以外にも、急激な温度、湿度、気圧の変化には気を付けるべきです。皮自体にもよくないです。例えば、夏の蒸し暑い日に冷房のよく効いた室内から、急に外に持ち出す時など。三味線は冷えた状態です。冷えたコップの外側に水滴が付くのと同じような事になりかねません。


・膠(にかわ)

三味線には、膠という接着剤も使われています。この膠も強力な接着剤ですが、やはり水分、湿気に弱いです。天神と上棹、下棹と中木(なかご)、胴の接着部分に使われています。

もし外れた場合は、市販の接着剤などで着けずに三味線屋さんに頼みましょう。市販の接着剤などで着けますと、後で外したい時(修理する時など)に外れなくなります。

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そんな訳で、三味線は湿気を嫌うのですが、逆に乾燥させ過ぎると今度は棹が割れやすくなる心配が出てきます。・・・まあ、あまり神経質になり過ぎると演奏どころじゃなくなりますんで。

自分が快適に感じる天候の時は、三味線も快適であり、よく鳴ってくれます。逆にジメジメ不快に感じた時は、三味線にも気配りすればよいわけです。三味線は生き物です。大事にしていい音を出さないと、犬や猫にも申し訳ないですよ。


・撥皮

撥の当たる部分に貼る、薄い皮で、皮が撥先で傷ついたり穴が開いたりするのを防ぐものです。ギターで言うとピックガードみたいなもんです。皮の張り替えは職人さんでないと無理ですが、撥皮は慣れれば自分でも貼り替えができます。”張る”と”貼る”ですから。慣れないうちは三味線屋さんに頼みましょう。


余談

・漆(うるし)

三味線は湿気を嫌いますが、棹や胴の外側に塗ってある漆は、湿気が多いほどよく乾く、という性質があります。正反対の性質なんです。


・三味線を始めて間もない頃の失敗談

真夏にTシャツ1枚で汗だくになって三味線を練習してましたら、裏の皮がズレてしまいました。汗が皮に付いて糊がとれてしまったんですね。そうなると張り替えしかないですので、痛い出費です。また、この皮の張り替え時に発覚したんですが、下棹と中木の接着もゆるんでいたようです。三味線屋さん曰く、「多分、サウナ状態になって膠がゆるんだんちゃうかな。それも直しといたよ」・・・ありがたや、ありがたや。


少し酔っ払って、うっかり三味線を倒してしまい、天神がガタガタになってしまいました。三味線屋さんに見てもらったら、「うん、大丈夫、直せるよ」。倒した衝撃で天神の接着箇所が外れたのでした。外れる事で、うまく衝撃を逃して棹が割れるのを防いでくれた訳です。


やっぱり、道具は大切に使わなければいけません。三味線は特に繊細なものですから。僕なんかは、路上演奏もしますので、少々乱暴に扱っても大丈夫なくらいのタクマシサを求めたくなるんですが、三味線の構造や特徴を知っておけば、うまくやっていけるもんです。

物事、どんどん便利になって、なり過ぎて、それはそれで良い事だとは思いますが、僕なんかは、少し不便なくらいがちょうど良いんじゃないかな、なんて思っていますよ。


寒梅粉の糊も膠も、水分、湿気に弱く、一見、三味線を扱いにくくしているように感じますが、それは修理がしやすいように、修理して長く使えるように、という昔からの知恵です。何でも使い捨てが当たり前のようになっている現在、決して忘れてはいけない事だと思います。

ただ、こういった修理のできる職人さんが、どんどん減ってきているのが現状だそうです。

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