2024年
1月20日 糸の扱いと耐久性
三味線の糸は絹糸ですが、一番細い三の糸は切れやすいんで稽古時などはナイロン糸やテトロン糸を使う人も多いかと思います。津軽三味線の場合は、現在ほとんど三の糸はナイロン糸またはテトロン糸を使います。ナイロン糸とテトロン糸、僕の感覚ではナイロン糸の方が音は良いかな。見た目はテトロンですが。テトロンは遠目に見れば絹糸の様ですが音の伸びがいまいちな気がします。現在はだいぶ改善されているかもしれませんが、やはり手触りも硬いですので撥の減りも早いです。
僕は普段路上で弾く時は三の糸も絹糸を使っています。何故かと言うと、音色が良いのは勿論なんですがそれ以上に、切れやすい絹糸をどうやって長持ちさせ、かつ音量も出すか。そのための撥の当て方や強さを追究するためでもあります。昔はナイロン、テトロン無かったんだし。あと、三絹使う場面としては、ソロで三味線一本のライブをやる時も最近は大体そうです。
兄弟弟子も一緒に出るような大きな舞台や唄付け(唄の伴奏)の舞台などでは三の糸はナイロン糸を使います。もし舞台上で切れたら迷惑かかってしまうし、繰ってる時間も無いしね。
「繰る」ってどういう事かと言うと、以下の写真でわかるでしょうか?
大体切れるのは、撥の当たる所。三の糸(絹)なら、よく使うツボ位置やハジク所からも切れる事があります。撥の当たる所はだんだん白っぽくなってきて毛羽立ってきます。そうなってくると三の糸なら切れるまで時間の問題。一の糸は太いので切れる心配は無いでしょうが、そのまま弾き続けると撥先の減りも加速します(撥先の状態も大事ですので、また別の日に書きます)。そうなる前に繰ってその位置をずらしていくのです。
僕のこれまでの経験上の話ですが、
新品の糸なのに音緒の所で切れるのは、結ぶ時に糸を折り曲げてしまっているのかもしれません。この場合は繰って結び直せばまだまだ使えます。絹糸は糊で固めてありますので、ポキッと折り曲げないように注意しなければなりません。折れ曲がった所が弱くなります。
保管している間に切れていた、って事もよくあるんじゃないでしょうか。しばらく弾かない時は、糸を少しゆるめておくといいですよ。
駒の所で切れるのは、駒の溝(糸道)が滑らかでは無いのかもしれません。僕は駒の糸道は極細の丸ヤスリでつけます。糸道を慣らすには使い古した糸を擦り付けてもいいと思います。
上駒の所で切れるのも同様、上駒に傷があるのかもしれません。それか上駒の取り付け位置がよくなく棹の角に糸が当たっているかもしれません。その場合は上駒を付け直すか、糸が当たっている棹の角をほんのちょっと削るかです。
糸の替え時は?
それは音が悪くなった時です。どうしようも無い位置で切れた時は、替えるしかないですがね。ただ、音は徐々に悪くなるので気付き難いかもしれませんね。糸が毛羽立ってきたり、手汗や湿気などで糊がとれてきても徐々に音は悪くなります。弾かなくても経年劣化があります。三味線の糸が、ただの紐になってしまったら良い音は望めません。ですから新品の糸を張った時の音色をよく覚えておけばいいですよ。
あ、それから舞台の時は当然オール新品に替えます。
糸を替える場合、糸巻きに巻き付ける時はしっかり引っ張りながら固く巻き付けるようにしましょう。ふわっと巻き付けるとすぐに調弦狂いますから。張ってからも新品の糸はよく伸ばしてあげましょう。
なんだか、Q&Aみたいになってしまってる、おょょ。
参考にはならないかもしれませんが、僕が路上等で100%で音を出す場合、
三の糸 絹 13-3または14-3 は 3、4時間で使い果たします。
二の糸 15-2 は 3、4日で使い果たします。
一の糸 義太夫の中口 は 3週間~1ヶ月で使い果たします。
「使い果たす」とは、まず糸を繰って繰って繰りきって、その糸を上下逆さまにして同じく繰りきる事です。まさに「使い果たす」とはこういう事を言うのだ!
このように糸を使っていると、音緒がすぐにボロボロになってしまいます。文楽の三味線奏者も、当たり前のように「糸を繰る」事をされています。長い演目の時など舞台上でも繰る光景が見れるかも。
文楽の三味線奏者もいろいろ工夫されていて、参考にさせてもらう事があります。音緒がボロボロになる件、文楽三味線では音緒の糸を結ぶ所に使い古した撥皮?を巻いて補強されています。僕も以前、真似してみたんですが、糸が滑っちゃっていまいちだった。津軽三味線の場合は調子が高いからかな?文楽の三味線はかなり調子が低いから糸のテンションも違うからかな?
文楽の三味線も津軽の三味線も太棹ですが、全く別物と言っていいです。
棹は、津軽は面幅1寸が標準ですが、文楽の棹はもう少し細いです。
胴は、津軽は5分大が標準ですが、文楽は3分大くらいかな?間違えてたらごめんなさい。
皮の張り方も違います。津軽はカン張りですが、文楽は水張りです。
撥は、津軽は鼈甲ですが、文楽は象牙のゴッツイ撥です。
駒は、津軽はだいたい竹の軽い物ですが、文楽は鉛入り(水牛角)の目方のある背の高い駒です。めちゃくちゃ背が高いですし重さも10g前後だそうです。高さは、僕は基本2分8厘を使ってますが、文楽は5分とかそれ以上か?
糸は、一の糸だけは同じ。文楽は二の糸、三の糸もかなり太いです。
こうして見ると、同じのは一の糸だけか。たぶん僕、文楽の三味線渡されてもまともによう弾かんと思います。
ちなみに文楽の三味線で使う義太夫糸は1本で2本分です。真ん中に赤い印がついていて、そこで切って使います。義太夫糸は普通の三味線糸よりも巻き(撚り)が細かいです。長さも長いです。なので僕は一の糸は義太夫糸を愛用しています。
だいぶ話が逸れましたが、音緒がボロボロになる件、下の写真の音緒はまだきれいですが、糸を結んである部分が擦れてボロボロになるのです。これについてはすでに僕流解決策があります。繰っても繰っても全然大丈夫!メッチャ丈夫!詳細についてはまた後日。
あと、もし真似する人がいればですが・・・注意点・・・もしあなたの先生、師匠に何か言われたり怒られても、僕は責任取りませんぜ。あくまで自己責任でね。で、一の糸に関して、繰りきった糸を上下逆さまにして使う時は、毛羽立っている部分をさわり山に当てないようにしてください。糸の綺麗な部分がさわり山に当たるようにしないと、さわりが綺麗につきませんので。
と、まあ、いろいろ書き出したらきりがないので、今日のところはこれくらいで。