2024年
2月11日 棹の減りについて
三味線の棹も、使っていると「勘減り」と言って、上場(糸を張ってある面)のよく使うツボ位置付近がすり減ってきます。上の写真は若干4、6ツボ辺りが漆剥げつつあるけど、まだまだ綺麗な状態。下の写真は約95時間使用の棹。数字はツボ番号。
漆仕上げの棹であれば、最初は
①漆の塗膜が剥げてきて輝きが無くなり木の地肌が見えてきます。漆の塗膜と言っても塗ってあるわけではなく拭き漆(擦り漆)ですので極々薄い塗膜になります。
②そこから徐々に木の道管が目立ってきて、
③さらに木自体が削れて凹んできます。そうなるとツボを押えてもノイズが入って綺麗な音が出ません。
酷く勘減りしている棹は、演奏を聴いただけでわかります。
勘減りは、三味線屋さんに持って行ってなおしてもらいましょう。棹の上場を鉋で削って綺麗にしてくれます。「上場通し」とか「勘減り直し」とか言います。注意しなければいけないのは、棹の減った部分だけ削るのではなく、棹の上場全体を削るという事。③の状態まで使うと、凹んでいる底まで削らないといけないので、棹(上場)を削る量が多くなってしまいます。減ってない部分まで削る事になります。出来れば②の状態くらいで上場通し出した方が削る量が少なくて済みますので良いかと。
どれくらいで減ってくるかは、どれだけ弾き込んでいるかによります。よく練習される方は減りも早いです。まあ、これは棹に限らず、糸でも撥でも全てに言える事ですが。三味線は全て消耗品だと思った方がよいです。あと、棹の材質によっても変わります。花林と紅木では、花林の方が材質が軟らかいので減りは早いです。同じ花林でも密度の違いで減りの早い棹、減りにくい棹はあります。同じく紅木もです。
ちなみに僕の場合、紅木でも150時間くらい使えば②の状態になるので上場通しします。4ヶ月~半年前後ですかね。金細の100万円以上するような、めちゃくちゃ良い三味線は持ってないんでわかりませんが、そういう三味線は紅木の中でも特に堅い物を使っているので、減りも少ないのかな?
下の写真は約95時間使用の3、4、6ツボ付近拡大。まだもうちょっと使います。
それから、基本的に、棹面と胴面(皮を張った状態)は面一がいいとされています。(「下がり」については後述) 何度か上場通しをすると胴面より棹面が低くなってしまいますので、こうなった時はハ調整をしなくてはなりません。これも三味線屋さんでやってくれます。上場通しをする時に見てもらって必要なら一緒にやってもらえばいいですよ。下の写真は面一状態なんで、まあ良かろう。
こちら(下の写真)は、上場通しする前の状態で既に棹面が若干下がってます。
どの程度でハ調整するべきなのかは、職人さんの判断になると思いますが、この程度はどうなんだろうか?まだここから棹を削りますので、やっといた方がいいかな?と僕は思います。
ちょっとここで、
もし、これから三味線を始めようと思ってる人とか、始めたばかりの人とかがこれ読んで、何だか脅しみたいになってしまっても困るんで。こんな色々消耗して修理も必要になるのか?!と。ご安心ください。普通に使ってる限りは、花林の稽古用三味線でも、かる~く20年以上は使えます。
僕は馬鹿みたいに弾きまくってるから消耗が早いんです。現に、僕が三味線始めてから10年くらいの間は、そんなに消耗しませんでしたから。その間というのは別に仕事を持ってましたし、三味線練習する時間も限られますわな。それに初心者のうちは、自信が無いから撥打ちも弱いしそんなに強く音を出せないし、押える力も足りていない事が多いんで、減りませんわな。三味線を仕事にしてからですよ、棹から、糸から、撥から、糸巻から・・・消耗の速度が数倍になったのは。
そんなわけで、心配ご無用。自分の好きな事を好きなだけやってくださいね。
と、また話が逸れたんですが。書いててちょっと気になったもんで。逸れたついでに、もうちょっと。
でもね、ほんとそうなんですよ。三味線1本で生活するようになって、まだまだ自分の技量が未熟なのが嫌という程わかってくるから、ますます稽古するでしょ。そうすると道具の減りが半端ない。上場通し一つにしても、結構お金かかるんですよ。それを半年に一回ペースでやるのはキツイですよ。いろいろ考えました。棹に透明テープを張ってみたり、カシュー塗料を塗ってみたり・・・結果、テープを張っても勘減りします。カシュー塗料はいかにも塗りました!って感じで見た目がダサイし、厚塗りしたら減る前にヒビ割れしたかな?結局は、早めに「上場通しをする」「漆で仕上げる」に落ち着くんです。それを自分でするんです。削るのではなく、埋めるって事も考えましたが、これ微妙。また別の時に書きます。
でも、何やかんやで今では、三味線の整備は殆ど全て自分でやれるようになりました。そりゃあ職人さんの仕上りには敵う訳ないですけど、自分で使う分には全く問題なし。それなりに勉強もしましたし、今でもしてますが、失敗もしましたし。でも、その都度知識が増えていって、実際にやってみる事で納得し、わからない事は徹底的に調べるんだ。鉋や鑿など道具について、砥石について、漆や膠について・・・自分が使う物はちゃんと理解した上で使いたいからね。
自分で整備調整し、皮張った三味線で演奏する。全部自分の責任!言い訳は無し!これだよ。 だから僕の演奏は、三味線整備するところから始まってんの。
ほいで、上場通しだけど、鉋で削ると言っても、普通の鉋では木が堅いから上手く削れません。立鉋という刃が垂直に立った鉋を使います。職人さんなら鉋も色んな種類を使い分けるようです。立鉋でも、刃が垂直の物、若干寝ている物、逆立鉋?という逆に寝ている物とか。最終的には削ると言うより粉を出していく感じかな。そして砥石で磨いて、漆を入れて仕上げます。漆ではなく、油で仕上げる場合もあります。
・ハ調整
棹面を胴面に揃えるために、中木を外して着け直します。中木は膠で接着されていますので、蒸せば外れます。ガッチリ着いている場合は外すの結構時間かかります。棹面と胴面が面一になるように、棹と中木をちょっとずらして着け直します。この時、胴への仕込み角度も正しくなるように着けなければなりません。
以下の一連の写真は、僕式のハ調整。下棹の中木との継手部分、ずらした分は削りますので反対側は付け足しておきます。そうすると中木側の継手部分は削らずに済みますので胴の角穴も基本何もする必要はありません。
・下がり
三味線という楽器は、胴に棹が貫通してるんですが、棹面と胴面は一直線ではなく、若干胴が斜めに仕込まれています。下がりは、一分(約3mm)前後が標準なのかな?写真、赤↕(黒丸部分)、ここの隙間。
僕は、標準より多めで4mm~4.5mmくらい取ってます。そいでちょっと高めの駒を使います。あと、皮の張りが今一歩だった時の事も考えて。その方が、皮に圧をかけれるんじゃないかな?と思って。実際のところ、音色的に明らかに違うなと言う体感はあまり無いですが、微妙な感じ。
音色、音質については、その時の湿度、温度、気圧等、他にも様々な要素が絡んでくるんで、非常に難しいです。でもやっぱり三味線は皮張りの良し悪しです。音色、音質の8割は皮張りで決まると言っても過言ではないと思います。当然、各部ガタ無く仕込まれているか、ハの状態、棹の状態等、全て良い状態である事が大前提になるんですがね。皮張りに関しても、いろいろ思うところ、考えてる事がありますので、また書きます。「また書きます」が多いなあ・・・ネタが尽きないわ。
それから、「栄水の手帳」で載せてる写真は全部本物の三味線だからね。ミニチュア三味線ではありませんよ。