2024年
2月17日 漆で?アロンアルファで?埋める
棹の勘減り、削らず埋めるのはどうだろう?って事で、以前にやってみた事を書きます。
その前に、ちょっと漆の説明から、ざっと。
漆は、漆の木の樹液で、昔ながらの塗料であり接着剤でもあります。その樹液から不純物などを取り除いただけの物を生漆と言います。乳白色のドロッとした液体で固まると飴色透明になります。主に下地に使います。
生漆を精製した物で、熱を加えながらよく撹拌した物を素黒目漆とか透素黒目漆とか言います。熱を加える事で水分を飛ばし、撹拌する事で粒子を細かくして、硬化後の艶が出ます。粘度も少し落ちますので塗立て用に使われます。
朱合、艶朱合、上朱合等は、精製する時に植物性の油を加える事で、硬化後の艶が透素黒目漆よりも出ます。主に仕上げ塗りに使います。
他にも種類はあるんですが、僕が使うのはだいだい上の3種類です。最近、生漆使い果たしたから素黒目と艶朱合だけでやってます。
漆の硬化は、漆中の酵素が空気中の水分に含まれる酸素と重合反応して硬化します。ですからある程度の湿度が必要になるのです。乾燥させるわけではありません。他の塗料(ラッカー等)は溶剤等の揮発成分が揮発して固形成分が残る事で硬化、こちらは乾燥させるという意味で「乾く」と言う表現になります。漆も「乾く」と言う表現もしますが、厳密には「硬化する」が正しい表現だと思います。
三味線の棹に使う場合は、塗るのではなく拭き漆(擦り漆)という手法を使います。漆をタンポ等で刷り込み、拭き取ります。拭き取っても漆はわずかに残っていますので、それを硬化させます。これを何度か繰り返します。
拭き漆の場合は気にすることは無いですが、塗る場合は厚塗りは厳禁です。厚く塗ると「ちぢみ」と言って表面がシワになってしまいます。中まで硬化する前に表面だけが先に硬化してしまうからです。なので漆は極々薄く塗るのが鉄則です。
数年前、漆を使い始めた時にやった「ちぢみ」実験。どれくらい厚塗りしたらちぢむか。たぶん湿度は80%くらいに上げてたと思います・・・上はかなり厚塗り、下は少々厚塗り。実験と言いながら、かなり、とか、少々、とか、めっちゃアバウト。しかも、どの漆を使ったかも忘れた・・・おょょ。しかし、数年間放置してたら中まで固まっとる。
漆の硬化時間は、温度と湿度によって変わります。硬化させる時は、漆ムロに入れとくんですが、要は温度湿度をある程度一定に保てて空気が動かない場所を作ってそこに入れておけばいいです。経験上、と言う程の経験は無いですが、温度は25℃前後、湿度は60~70%くらいがちょうど良いような気がします。温度、湿度が上がり過ぎると、硬化は早いですが仕上りの色が黒っぽくなります。冬場はどうしても低温になりますから硬化には時間がかかります。
高分散漆という、比較的低温低湿度でも硬化する漆もあります。硬化も早いです。堤浅吉漆店の「光琳」や、佐藤喜代松商店の「MR漆」や「NOA」などがそうです。
硬化は、NOAが一番早いかな?ただ早い分、仕上がりが黒くなりやすいです。過剰な湿度はいらなさそう。NOAは特殊なたんぱく質を混ぜる事で、かぶれにくくなってるそうです。僕は漆かぶれはしないんで、かぶれにくいかどうかはわかりません。
光琳もいい感じです。
両方共に冬場でもしっかり硬化してくれるんでとても助かります。拭き漆なら冬場の夜の室温(18℃以下)でも一晩である程度硬化していて、2、3日も入れとけば大丈夫です。急ぐ時は光琳に少しだけNOAを混ぜたりもします。それから光琳、NOAは少々厚塗りしてもちぢみにくいように思います。MRはちぢみやすい気がします。もっとも拭き漆の場合は関係ないですけども。僕は、光琳、NOA、MRを使ってます。NOA、MRまたは光琳の透素黒目、仕上げに光琳の艶朱合を使う事が多いです。
漆を入れる前の棹磨きは、自分でやると当たり前ですが職人さんのようには仕上がりません。職人さんなら磨きだけで漆刷り込まなくてもいいぐらいピカピカに仕上げられるんですが、なかなかそこまで出来ないです。なので僕は最終的に艶朱合で仕上げて、漆の艶で誤魔化してる感じです。僕は、上場通ししたら最低3回くらい拭き漆をします。最後の艶朱合は結構漆を残しぎみに拭き取ってます。
・・・漆の説明、ざっと。の割にはそこそこ書いてしまった。まだいろいろあるんだけどね。ま、だいたい合ってると思いますが、もっと詳しく知りたい人は自分で調べてください。
それで、やっと「漆で埋める」なんですが。
勘減り箇所を漆だけで埋めるのは、気の遠くなる時間が必要です。一度に厚塗りは出来ませんので。そこで、漆器の下地や金継ぎで使う手法を取り入れてみます。例えば、砥の粉と漆を混ぜてペースト状にします。錆漆とか言うんですが、固まると表面が錆みたいになるから、らしい? 漆器の下地や金継ぎで欠けた部分を補修する時などに使います。ある程度肉盛りが出来ます。
・本地→砥の粉+漆
・本堅地→砥の粉+水+漆
他にも、刻苧、麦漆、等あるんですが、硬化後一番堅いのが、本地らしいです。なので本地で勘減り箇所を埋めてみました。(下の写真、本地固まるかのテスト。実際に棹に施した時の写真は撮ってなかったので)
ただね、砥の粉と漆の分量が難しいんです。漆が多すぎると固まらないし、砥の粉が多すぎても上手くいかないし。あと、分量が上手くいっても完全に固まるまで結構時間がかかります。最低でも1週間前後だったかな? 上手く固まって、盛り上がった部分を綺麗に平らにして拭き漆で仕上げます。花林の稽古用三味線で試したんですが、埋めた所は黒になるんで花林棹では目立ちます。使ってみると、本地で埋めた部分はメチャ硬いです。減る気配が無いくらい。ただ、使ってるうちに埋めた際の部分(図一番下赤丸)がいつの間にか剥がれてるんです。これ、ちょっと嫌。この部分で糸も傷付くしね。
紅木でもやってみました。それほど掘れてなくって、木の道管が目立ってきたくらいに、目処をする感じで刷り込んでみたんですが、上手く食い付いてなかったのか、結構早い時点でポロッと取れてしまいました。
いかに木地に食い付かせるかがポイントになりますね。
・アロンアルファで埋める・
錆漆で埋めるのは時間がかかるし、分量配分も難しいので、アロンアルファではどうか。アロンアルファも硬化後はかなり硬いですし、何より直ぐ固まるのがいい。それに硬化後のアロンアルファには漆が乗ります。欠点は埋めた部分がテカる。強度的には十分いけるんだけど、これもやっぱり錆漆と同じく、図の部分が剥がれちゃう。
漆にしてもアロンアルファにしても、いかに木地にしっかり食い付かせるかですね。まだまだ研究の余地ありですが、そればっかりやってられないので、今は埋める事は基本的にはしてません。
あと、必殺技!上場通し何度もしてハ調整もやって、もうこれ以上棹削りたくないなあ、という三味線の棹を復活させる!?
次回はこれについて。