2024年
3月1日 撥について
三味線の撥は、演奏するジャンルによって違います。僕は津軽の三味線専門なんで、津軽用の撥についての説明になります。津軽三味線で使う撥は、長唄や民謡、地唄の撥よりも小ぶりです。
津軽用の撥は、全長は170mm前後、開きは90~95mm前後が多いんじゃないでしょうか。材質は、プラスチック製の物、先が鼈甲の物があります。一番低価格の物(現在は¥4000前後かな?)は硬質のプラスチックを使っていますので撥先のしなりは殆ど無いです。プラスチック製でも適度なしなりのある物もあります。値段は少し高くなります。
鼈甲撥は、殆どは鼈甲にプラスチック製の手元をはめ込んだ物になります。手元は他に、水牛の角や木(紅木、花林など)、象牙などもあります。先に使う鼈甲は、一枚甲と合わせ甲があり、一枚甲は一枚の鼈甲を割いて手元にはめ込んであります。合わせ甲は基本的に二枚の鼈甲を接着してあります。その合わせ方は何パターンかあるようです。値段は一枚甲の方が高いです。僕の感覚では、合わせ甲は一枚甲よりも、しなりが硬いです。しなりを出すために撥先を薄める場合、合わせ甲ではちょっと怖いので僕は一枚甲を使っています。
撥も使っているうちに先がすり減ってきますので消耗品です。すり減るだけでなく、先が欠ける事もあります。新品の撥は先が尖っていますので、欠けやすいですし、糸の方も減りやすいです。僕は新品の撥や、撥先を新品状態にした時(これ後述)は撥先をほんの少し丸めて、わずかに面取りしてから使います。撥先がピンピンに尖っているよりもほんの少し丸くなっている方がちょうどいいです、僕はね。その方が糸も傷つきにくいですし、欠けの心配も少なくなります。そうやっても最初はあまり強くは弾きません。徐々に撥先に当たりがついてきてから、100%で弾き出します。
バイクでも車でも新車の時は慣らし運転が必要だったでしょ?ひと昔前の話だけども、バイクなら最初の3000kmくらいは慣らし運転必要でしたよ。各部の部品、特にエンジン内部のピストンリングとシリンダー等その他ギヤ類の当たりがつくまでは全開走行はしないで穏やかに走る。かなり昔の話ね。部品加工の精度が上がってきてからは新車でも慣らし100kmくらいでいけるよ、とバイク屋さんに言われた事を思い出しました。と、また話が逸れていきそうだ。バイクの話をし出しても、結構うるさいんだ、僕・・・
で、撥先の状態は下の写真くらいの時が僕は好きです。
それから、撥を矢印の方から見た拡大写真、下の二枚。どちらが欠けやすいでしょう?
当然二枚目の撥先の方が欠けやすいです。写真では分かりにくいかもしれませんが、先細りになってるでしょ? 一の糸を強く打った時に、糸に当たる方の逆側(裏側)が剥がれるように欠けてしまう事がます。
このまま弾き続けると糸を傷つけますので、修正した方がいいです。修正は耐水ペーパーの400番、800番くらいから2000番、3000番くらいまで。
最初は粗目(今回は800番)のペーパーで形を整え、欠けて鋭利になった部分を無くします。
先、丸くなりました。これでもええんだけど、もうちょっとだけ尖らせよか。今回は切らずにダイヤモンド砥石でちょっと削りました。
あと、2000番、3000番のペーパーで軽く磨いていきます。最後に僕は「アクリルサンデー」という研磨剤で仕上げます(ホームセンターに売ってるよ)。撥先は、特に糸の当たる面は常にピカピカにしています。
あと、欠けなくてもすり減ってきた時、撥先の糸が当たるほんのわずかな面ですが、ざらついて曇ってきます。爪で触ってみると引っ掛かりがあったり。そんな時も同じように軽くペーパーがけして磨いときます。
撥先は糸を打つ面がだんだん擦り減ってきて、前述のように先細りになって欠ける事がありますので、そうなる前にあえて薄くなった先を削り厚みを保たせます。それを繰り返すと先が丸くなりすぎるので、切ります。下のイラストはあくまでイメージです。何か間違い探しみたいやな。
撥先の擦り減り方は、撥打ちの角度、強さ等で人それぞれ違いますので、示しているのは、あくまで僕の場合ね。
過去、たぶん10枚以上の撥を使いましたが、ここ数年でやっと自分が扱いやすい撥の形、寸法が定まってきた感じです。既製品だと自分の好きな形に加工するのも限度があるんで、最近はオーダーで作ってもらってます。三味線演奏するにあたって、人それぞれ手の大きさや指の長さ、体格も違う訳ですから本来自分に合った道具(撥に限らず)を使うべきだと思うんですが、そこにたどり着くまで結構時間がかかるのも事実です。
撥のオーダーは東京の「海宝堂」さんに頼んでます。撥の各部の寸法を細かく指定出来て良心的な価格(一枚甲¥45000~)で作ってくれるんで非常に助かります。しかし・・・新たにもう一枚作ってもらおうかと思ってホームページ見たら、およよ!¥60000~に上がっとる!・・・まあ、これでも最近の鼈甲撥の値段考えたら安いけどね。
鼈甲ではなくネオ甲と言う鼈甲に似せた、しなりのある樹脂製の物もあります(下の写真)。本格的には使っていないので何とも言えませんが、これも悪くないと思います。
下は三年半ほど前にオーダーした一枚甲の撥で、完全新品状態の時の写真。
開きをかなり多め(約103mm)にとって、鼈甲両サイドのカーブもきつめです。
開きは、95mmくらいが僕的には一番弾きやすいんですが撥先の消耗を考えて最初は多めにしてます。撥先が丸くなったら切りますんで、二、三回切ったら95mm前後になるようにしてます。
切るのにはプラスティックカッター、写真にちょっと写ってる黄色いのん。当然、先を切る度に厚みが若干増しますので、薄めてしなりを調整してます。薄めるのは鼈甲部分ほぼ全面、鑿で省いてから水砥ぎ、耐水ペーパー400番→800or1000番→2000番→3000番→5000番→アクリルサンデーで仕上げるんですが、だいたい一回では済みません。最終仕上げ、アクリルサンデーで磨くと表面がピカピカになるんで、深い傷が残ってたらそれが目立ってくるんです。そうなるともう一度粗目のペーパーからかけなおし。その繰り返しで傷を取っていきます。
そして下の写真が現在の状態。開きは約85mm、僕にとってはかなり狭い感じ。
新品の時の開きが約103mm~現在約85mmまで使えるのは、鼈甲への手元の入り込みを極力少なくしてるからです。出来るだけ鼈甲のみの部分を多くする事で最後までしなりを使えるようにしてます。
↑ 左の三枚が既製品の撥、右の二枚がオーダー撥。
左が既製品の撥(カーブ若干加工してます)、右がオーダー撥、矢印が手元の入り込み位置。開きはさほど変わりませんが、オーダー撥の方が鼈甲のみの部分が多いです。ちなみに右のオーダー撥も最初は開き104mm程ありました。
僕は、撥先の厚さはあまり薄いと一の糸に負けてしまいますので、ある程度の厚みが欲しいんです。かつ、しなりも欲しいんです。撥先の厚さが同じであれば、サイドが直線的なものよりもカーブをきつくする方がしなりが得られます。撥二枚重ねの写真、上のがオーダー撥(カーブきつめ)、下のが一般的な既成品の撥。ただ、カーブが直線的な方が切った時の開きの減少が少なくて済むんですがね。
撥について、今の時点での僕の考え方とか使い方を書きましたが、もっと消耗の少ない弾き方、撥の打ち方があるかもしれません。それは日々考えながら弾いていますので、今後変わっていくかもしれません。これは撥に限らずです。その時は、また「栄水の手帳」で更新します。