2024年
4月30日 駒位置について
三味線を弾く時、駒位置はどのあたりがいいでしょう?
駒位置は大事でして、それによってかなり音色が変わります。音緒に近い位置に置けば締まったシャープな音色になりますが、音量は下がります。逆に胴の真ん中方向に近くすれば音量は上がりますが音色はポンつきます。この傾向はどの三味線でも同じです。
基本の駒位置がありまして、それは胴の大きさによって違います。
・胴の寸法は、胴の側面の丸みを含めない、皮を張ってある平らな面(経口)の長手短手の寸法を見ます。下の写真、赤矢印。
長唄三味線の胴は、6寸5分×5寸9分 で、これが基準となっています。
これよりどれだけ大きいかで表し、~大と呼びます。
民謡三味線(中棹)には5厘大
地唄三味線(中棹)には1分5厘大または2分大
津軽三味線(太棹)には5分大
と言うふうに。
ただし、必ずしも長唄三味線は細棹に長唄胴であるとは限らず、細棹でも5厘大の胴をつける事もあるようです。他の三味線でも同じで、要は棹の重さとバランスをとるために胴の大きさ(重さ)を決めるという事です。
・ついでに、棹ですが太さによって、細棹、中棹、太棹と三種類あります。どの部分の太さを見るかというと、乳袋(天神の付け根)直下の棹の面幅を見ます。
細棹 8分4厘前後以下
中棹 8分8厘前後
太棹 9分2厘以上
と定義されているようです。
棹も、同じ面幅でも側面の丸みや材質の違いで、太く感じたり重く感じたりはあります。
・棹の長さは、正寸と呼ばれる一般的な三味線であれば上駒~胴の付け根までは太さに関係無く全てほぼ同じです。ほぼ、ね。棹の太さ(重さ)によって胴の大きさ(重さ)、天神の大きさが変わります。
正寸に対して、短棹もあります。正寸よりも1寸短、1寸半短、2寸短など。主に民謡の伴奏に使う民謡三味線(中棹)は短棹を使う流派が多いです。棹を短くする事で弦長も短くなりますので、正寸の三味線よりも高い調子まで合わせる事が出来ます。(これについては最後にもうちょっと詳しく書きます)
ここでまた駒位置の話に戻しますが、大事なのはどの(正寸の)三味線でも基本的には弦長を同じにする事。弦長とは、上駒から駒までの距離です。これは2尺6寸と決まっています。上駒から胴の付け根までの長さは同じですから、ちがうのは胴の大きさだけです。(下写真、上が津軽用太棹5分大胴、下が民謡用正寸中棹5厘大胴。本当は長唄用三味線と比べたかったんだけども、持ってないんで・・・)
しかし駒位置を決めるのに、いちいち上駒から2尺6寸測ってられないので、普通は音緒からの距離で測ります。
長唄三味線の場合は、音緒から指1本半から2本分の位置と言われます。人によって指の太さは違いますし、あくまで大体の位置ね。(下の写真は5厘大胴)
津軽三味線の場合、より厳密に言えば、正寸で5分大の胴の場合、音緒から指3本分くらいの位置です。同じ5分大の胴でも側面の丸みの違い等によっても微妙に変わります。
きっちり自分の三味線の基本駒位置を知りたければ、やはり上駒から2尺6寸測るべし。
下の写真、両方とも正寸津軽用太棹5分大胴の三味線ですが、棹の長さや胴の丸みが微妙に違います。下の三味線は棹の長さ(上駒から胴の付け根)が若干長く、かつ胴の丸みが大きいですので、駒は音緒から指3本半くらいの位置になってます
で、この基本位置でどういう音がするかが大事なんですが、これは皮張りの良し悪しの確認にもなります。ただし、その時々の湿度や温度等で基本位置から数ミリから1cmくらいは前後させる事はあります。また、数年使って皮の張りがへたってきて基本位置ではポンついている場合は音緒寄りに締めます。締めても音がスカスカで音量も出なくなったら、破れてなくても張り替え時でしょう。
皮を張り替えたばかりなのに基本の駒位置でポンついているようでは、まだ張りが足りません。ほんの少し音緒側に締めればOKならいいですが、かなり締めなければいけない場合、奏者としてはどうする事も出来ません。 むしろ基本位置でシャキシャキでやかましいくらいの方が、何とか出来ます。そういう音が好みな人はそのままでいいですし。シャキシャキ音を抑えたければ駒を重めの物に替えるとか高さを替えるとかで、ある程度対処出来ます。
津軽三味線は大きな音を出すために、大きな胴が必要になったわけですが、ただ胴が大きいだけでなく、大きな音が出る位置に駒を置けるという事が大事です。それもボンボンと大きな音ではなく、より複雑な深みのある音色で鳴って欲しいわけです。そのために、分厚く丈夫な皮を使い、強く張らねばなりません。皮にも丈夫な部分、弱い部分がありますが、同じ皮は1枚もありませんのでそれを見極めて最も良い音が出るように張るのは職人さんの経験と腕次第です。
僕は、皮張りという作業は、最終的に三味線に魂を入れる作業だと思っています。
・短棹について
民謡の伴奏では唄う人の調子(キー)に合わせますので、下は9本(F)または10本(F#)くらいから上は8本(E)くらいまで。正寸の三味線では上は7本(D#)くらいまでが限界でしょうか?それ以上上げると糸が切れてしまうおそれがあります。
そこで、棹を短くする事で上の8本や、9本(はいけるかな?)が可能になります。
例えば、7本(D#)に調弦した時、弦長が短い方が弦の張り(テンション)が弱くなります。これは三味線に限らず、弦楽器全てそうです。この事は物理学でも説明可能ですがここでは省略します。逆に低音メインで弾きたい場合は弦長を長くしてやればいいって事になります。ギターとベースギターでは、ベースギターの方が弦長長いでしょ? そういう理由です。
短棹の基本駒位置は、正寸が上駒から2尺6寸ですから、例えば2寸短の三味線なら上駒から2尺4寸の位置ってことになりますね、厳密に測れば。
ついでに、全ての弦楽器で同じ事柄。
開放弦の音程の1オクターブ上の音が出る場所は、三味線では10のツボ、これは弦長のちょうど真ん中、1/2の地点です。
ギターでは12フレット、弦長の1/2の地点に打ってあります。
三味線は駒位置を変えれますので、例えば駒を1cmずらせばの10のツボは5mmずれます。
・・・などなど・・・
いや~三味線ってほんとに面白いものですね~