三味線の歴史、起源は諸説あるようですが、今から約450年ほど前、沖縄(当時、琉球)から大阪の堺に、三線(さんしん)が伝わり、その三線をもとに、三味線が出来たそうです。
三線は、蛇皮線とも言うぐらいですから、胴にニシキヘビの皮が張られています。しかし、本州では手に入りにくいなど、試行錯誤があった末でしょう、犬、猫の皮が使われるようになり、棹は三分割出来るようにしたりと、様々な工夫がなされて現在の形になったのです。
三線と三味線の音色の大きな違いは、「さわり」があるか無いかです。三味線には、この「さわり」があります。
「さわり」とは、説明するより、聴いてもらった方が早いんで、
「さわり」なし~あり←クリックしたら聞けます
・・・こんな感じです。
要は、ビビリ音です。ギターなどでも、中途半端に弦を押さえて弾くとビビリ音が出ますね。言い方は悪いが、ノイズです。ノイズを積極的に利用して、独特の残響音としているのです。
原理は、一の糸だけ、わずかに棹に接触させて、ビビリ音(さわり)を出させます。すると、二の糸、三の糸も共鳴します。
ちなみに三味線は、太い糸から、一の糸、二の糸、三の糸と呼びます。ギターとは逆ですね。
写真は太棹のさわり部分で、”東さわり”という、調節出来るものです。
三味線の調子(チューニング)と糸について
三味線音楽と言ってもさまざまです。長唄、小唄、端唄、地歌、義太夫、民謡、津軽など。僕は津軽三味線専門ですので、主にそれ中心の説明になってしまいますが、
三味線はその名の通り、弦は三本です。太い方から、一の糸、二の糸、三の糸、と呼びます。
調子(チューニング)は、本調子、二上がり、三下がり、の三種類あります。
・本調子は、一の糸から、C(ド)、F(ファ)、C(ド)
・二上がりは、C(ド)、G(ソ)、C(ド)
・三下がりは、C(ド)、F(ファ)、B♭(シ♭)
いつもCに合わせるとは限りません。唄の伴奏の時は、唄う人のキーに合わせます。
三味線では、Cとかドとか言わず、四本と言います。
A(ラ)が一本、A♯が二本、B(シ)が三本、・・・という具合に。半音刻みです。
調子笛という笛を吹いて、まず基本になる一の糸を合わせます。そして一の糸にしっかり さわり を付けて、二の糸、三の糸を合わせます。ちゃんと調子が合えば、二の糸、三の糸にも さわり が出ます。
糸は、絹糸です。一番細い三の糸は、撚り糸ではなく切れやすいため、ナイロンやテトロン製の糸を使う場合もあります。津軽三味線は、ほとんどそうです。
三味線の種類と構造について
三味線には、細棹、中棹、太棹、の3種類があります。それぞれ、棹の太さ、胴の大きさ、などが違います。皮の厚さも違います。
左の写真は、花林の太棹と細棹で(棹のみ)、中棹はこの中間の太さになります。基本的に長さ(矢印の部分)はどれも同じです。
胴の写真は、皮を張っていない状態です。まさに四角い太鼓ですね。
三味線は、一般的な長唄で使われる細棹が基本になっています。
民謡藤本流で使われる中棹(~細棹)は、短棹という6cmほど短いものです(右の写真)。また、子供用にもっと細く短くすることも可能で、中西楽器店(大阪、阿倍野)では子供用の三味線も作られています。
地唄は、中棹を使います。
人形浄瑠璃の音楽である、義太夫は、太棹です。他に、津軽民謡や、河内音頭にも、太棹が使われます。しかし、同じ太棹でも、義太夫と津軽では、音質がまったく違います。それは、皮の張り方や、駒や撥の違いによるものです。
三味線は、例えば、駒ひとつ変えただけでも音質が変わります。駒を変えなくとも、置く位置をずらしただけでも、微妙に音質が変わります。それ以外にも、撥の厚さや、やわらかさでも音質は変わります。これが、面白いところです。自分で音を作っていく楽器です。いろいろ試して、自分好みの音を創り出すのです。
次に、三味線の構造も知っておきましょう。
三味線には3種類あることを説明しましたが、基本的な構造はどれも同じです。簡単に言うと、三味線という楽器は、太鼓(胴)に棒(棹)が貫通している弦楽器であります。
下の写真、皮を張っていない状態だとよくわかります。
棹には紅木(こうき)という木が使われます。非常に硬く、狂いも少なく、音の通りが良い材料です。棹の材料として、最も適しているそうです。同じ紅木でも善し悪しがあります。トチと呼ばれる、綺麗な縞模様のよく出ているものが良いとされています。他に、花林も使われます。紅木と比べれば、軟らかく、棹としては劣りますが、稽古用として使われます。
なかには花林でもトチのよく出ているものもあり、こういうのは珍しいです。下の写真。また、胴にはすべて花林が使われます。
棹は、三分割できます。上棹、中棹、下棹からなっています。
三味線(細棹)と沖縄の三線を比べると、三味線の方が、胴は二回りほど大きく、棹は20センチほど長くなっています。そこで、棹を三分割出来るようにしたのです。三味線にしか見られない大きな特徴です。
理由は、持ち運びが便利なこともありますが、部分的に修理が出来る事や、何より、棹の反りやねじれを抑える事がねらいです。(写真は太棹です)
それぞれの、継ぎ手部分は、ホゾになっています。組み立てれば、ぴったりと合わさり、繋ぎ目がどこだか分らないくらいです。
皮について その他
三味線の皮は猫の皮と思われがちですが、実際には犬皮の方が多く使われています。猫は腹の部分、犬は背中の部分の皮を使うそうです。猫皮は貴重で価格が高く、高級な細棹三味線、民謡用や地唄用の中棹三味線、義太夫の太棹三味線の表に使われます。稽古用の三味線や津軽の太棹三味線はすべて犬皮です。
猫皮と犬皮では、厚さや毛穴の大きさなどの違いから音質も違ってきます。猫皮の方が、より繊細な音色になります。津軽で使う太棹三味線には最もぶ厚い丈夫な犬皮を使います。ぶ厚い皮ほど重厚な音色になり、薄いほど、抜けの良い軽やかな音色になります。
写真では判りずらいですが、犬皮(津軽用)と猫皮では全く厚さが違います。触った感覚では、津軽用の犬皮は猫皮に比べて3~4倍の厚さがあります。また、犬皮でも津軽用(太棹)、地唄用(中棹)、長唄用(細棹)とで、それぞれ厚さは全く違います。
それから、一枚の皮の中でも、厚い部分と薄い部分があります。この差が大きいほど、よく鳴るそうです。これまた触った感覚ですが、その差は、倍くらい(それ以上か?)違います。毛穴の粗い部分は薄く、密な部分が厚くなっています。下の写真(津軽用)、赤丸で囲ったあたりは皮の薄い部分です。厳密には他にも厚い部分、薄い部分はあるんですが。
三味線の皮は、なぜ犬、猫なのか?
よく鳴る、良い音が出るためには、三味線の”胴”という大きさの範囲内で厚さの差が出る皮でないといけません。ですから、牛などでは大きすぎるんですね。もっと小動物で手に入り易く、最も三味線に適したもの、ということで、昔々琉球から三線が伝わって以来、試行錯誤で江戸時代にはすでに完成されたのです。
しかしながら、猫皮も犬皮も現在ではほとんどが輸入品だそうです。皮に限らず、棹の材料である紅木、胴や棹の材料である花林、糸巻きの黒檀、象牙、撥に使われるべっ甲など、三味線の材料のほとんどは輸入品です。日本独自の楽器なのに意外な感じですね。
・三味線の注意点(皮)
胴に張る前の皮は、乾燥させてありますので、触ると画用紙のような感じです。これを水で湿らせて、やわらかくした状態で破れる寸前まで胴に張っていきます。ここは、職人さんの腕にかかってきます。
胴と皮の接着には寒梅粉という餅米からできた粉を水で溶いたものを使います。水飴のような糊で、乾くと強力に接着します。しかし、水溶性ですので水濡れは勿論のこと湿気にも十分注意しなければいけません。梅雨場は気をつけましょう。三味線を使わないときは和紙の胴袋に入れておけば、ある程度の湿気は和紙が吸ってくれます。冬場の結露にも注意です。近年の住宅は気密性が高いので結露は結構ありますよね。三味線を保管する時は、壁から少し離しておくなどの配慮も必要です。それ以外にも、急激な温度、湿度、気圧の変化には気を付けるべきです。皮自体にもよくないです。例えば、夏の蒸し暑い日に冷房のよく効いた室内から、急に外に持ち出す時など。三味線は冷えた状態です。冷えたコップの外側に水滴が付くのと同じような事になりかねません。
・膠(にかわ)
三味線には、膠という接着剤も使われています。この膠も強力な接着剤ですが、やはり水分、湿気に弱いです。天神と上棹、下棹と中木(なかご)、胴の接着部分に使われています。
もし外れた場合は、市販の接着剤などで着けずに三味線屋さんに頼みましょう。市販の接着剤などで着けますと、後で外したい時(修理する時など)に外れなくなります。
そんな訳で、三味線は湿気を嫌うのですが、逆に乾燥させ過ぎると今度は棹が割れやすくなる心配が出てきます。・・・まあ、あまり神経質になり過ぎると演奏どころじゃなくなりますんで。
自分が快適に感じる天候の時は、三味線も快適であり、よく鳴ってくれます。逆にジメジメ不快に感じた時は、三味線にも気配りすればよいわけです。三味線は生き物です。大事にしていい音を出さないと、犬や猫にも申し訳ないですよ。
・撥皮
撥の当たる部分に貼る、薄い皮で、皮が撥先で傷ついたり穴が開いたりするのを防ぐものです。ギターで言うとピックガードみたいなもんです。皮の張り替えは職人さんでないと無理ですが、撥皮は慣れれば自分でも貼り替えができます。”張る”と”貼る”ですから。慣れないうちは三味線屋さんに頼みましょう。
余談
・漆(うるし)
三味線は湿気を嫌いますが、棹や胴の外側に塗ってある漆は、湿気が多いほどよく乾く、という性質があります。正反対の性質なんです。
・三味線を始めて間もない頃の失敗談
真夏にTシャツ1枚で汗だくになって三味線を練習してましたら、裏の皮がズレてしまいました。汗が皮に付いて糊がとれてしまったんですね。そうなると張り替えしかないですので、痛い出費です。また、この皮の張り替え時に発覚したんですが、下棹と中木の接着もゆるんでいたようです。三味線屋さん曰く、「多分、サウナ状態になって膠がゆるんだんちゃうかな。それも直しといたよ」・・・ありがたや、ありがたや。
少し酔っ払って、うっかり三味線を倒してしまい、天神がガタガタになってしまいました。三味線屋さんに見てもらったら、「うん、大丈夫、直せるよ」。倒した衝撃で天神の接着箇所が外れたのでした。外れる事で、うまく衝撃を逃して棹が割れるのを防いでくれた訳です。
やっぱり、道具は大切に使わなければいけません。三味線は特に繊細なものですから。僕なんかは、路上演奏もしますので、少々乱暴に扱っても大丈夫なくらいのタクマシサを求めたくなるんですが、三味線の構造や特徴を知っておけば、うまくやっていけるもんです。
物事、どんどん便利になって、なり過ぎて、それはそれで良い事だとは思いますが、僕なんかは、少し不便なくらいがちょうど良いんじゃないかな、なんて思っていますよ。
寒梅粉の糊も膠も、水分、湿気に弱く、一見、三味線を扱いにくくしているように感じますが、それは修理がしやすいように、修理して長く使えるように、という昔からの知恵です。何でも使い捨てが当たり前のようになっている現在、決して忘れてはいけない事だと思います。
ただ、こういった修理のできる職人さんが、どんどん減ってきているのが現状だそうです。
・・・・・2010年記・・・・・